【連載|人を数学する】第3回 恋愛を数学する

1988年の論文「恋愛と微分方程式」

恋愛と数学ときいてその関係を想像できる人は多くないでしょう。恋愛と文学、恋愛と映画、恋愛と音楽、恋愛と旅行、どれもすぐに関係がわかります。恋愛をすることこそ人間の特権です。数学が恋愛と無関係のはずがありません。

1988年、アメリカの数学者ストロガッツは論文「恋愛と微分方程式各(Love Affairs and Differential Equations) 」を発表しました。今回はその内容を紹介します。

恋愛は勢い

人を好きなる時、その好き具合を私たちは感じることができます。どれくらい相手のことが好きなのか、どれほど自分は相手に好かれているか。量を測定することはできませんが確かに私たちの感覚は量を捉えています。

一目惚れして相手に自分の気持ちを告白するまでは日々、好き具合のレベルは増加していきます。逆に、相手の何気ない一言で百年の恋も一瞬で冷めてしまうこともあります。これは好き具合が急激に小さくなるといえます。

モデリング

このように好き具合は刻々変化する量と考えることができます。これまでの連載で繰り返し説明したように、刻々変化する量の変化の勢いを数学では微分といいます。第0回の感覚年齢、第1回の五感の感覚量、第2回の人口そして今回が好き具合のレベルです。この中で実際に測ることができるのは人口だけです。

物理学は測ることができる量──長さ、重さ、時間──を扱い、それらをx、y、z、tという変数で表すことで数学の出番となります。時間とともに変化する長さや重さについて微分・積分することで現象の仕組みを探り出すことができ、さらに未来を予測することさえ可能になります。これをモデリングといいます。

感覚年齢、感覚量、好き具合のレベルといった測定できない量でもいったんx、y、zとおくならば数学の出番となる点は物理学と同じなのです。経済学もモデリングにより成り立っています。商品を買おうとする時に、買いたい気持ちのレベルがあることは明らかです。さらにお金を払って商品を手にした時の気持ちにもレベルがあります。経済学ではこのような人の気持ちのレベルを効用といいます。効用をxで表すことで数学の出番となり、微分・積分ができることになります。経済学も物理学と同じようにモデリングにより成立する科学です。

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